大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和42年(オ)219号 判決

上告人

株式会社

加藤与吉商店

代理人

福間昌作

被上告人

合資会社

材平商店

代理人

中条忠直

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人福間昌作の上告理由第一点について。

原審の確定する事実によれば、合名会社米山商事をも含めた訴外真水建設株式会社に対する債権者が、右真水建設の事業を継続せしめてその再建をはかることにより自らの債権の満足をえようとして、米山商事の代表者米山らが真水建設よりその経営一切の委任を受けたというのであり、右委任に基づいて米山らは本件請負工事を続行したというのであるから、本件委任事務の処理は、委任者の利益であると同時に受任者の利益でもある場合にあたるものというべきである。そして、委任が当事者双方の対人的信用関係を基礎とする契約であることに徴すれば、右のような場合において、受任者が著しく不誠実な行動に出た等やむをえない事由があるときは、委任者は民法六五一条に則り委任契約を解除することができるものと解するのを相当とする(昭和三九年(オ)第九八号・同四〇年一二月一七日第二小法廷判決・裁判集八一号五六一頁)。

而して、原審の確定する事実によれば、米山商事は、真水建設の乗用車一台を私物視して他の債権者に非難され、また、真水建設所有の不動産を他の債権者および真水建設の承諾もなく所有名義を米山商事に移転したため、他の債権者の足並みが乱れ、右事実に端を発し、他の債権者も我勝ちに真水建設の動産類を持ち出し、遂に真水建設は不渡を出すに至つた、というのであるから、このような受任者である会社の代表者米山らの行動は、著しく不誠実なものというべく委任者たる真水建設としては、委任契約を解除するに足りるやむをえない事由あるものということができる。したがつて、真水建設のした本件委任契約解除の意思表示を有効と認めた原審の判断は、結局、正当である。

所論は、米山に対する経営委任と本件建築工事遂行および代金受領事務の委任とを別個の委任契約に基づくものであるとの前提のもとに、米山商事の不信行為は、建築工事請負代金受領事務の委任を解除する理由たりえない旨主張するが、原審の確定する事実によれば、所論のごとく別個の委任契約が成立したものではないから、右論旨は、原審の確定しない事実関係に立つて原判決を非難するに帰し、採ることをえない。また、原審の確定する事実関係に照らせば、本件委任契約の解除をもつて、信義誠実の原則に反し、権利の濫用にあたるものとすることはできず、原審の判断は正当である。それ故、原判決には所論のごとき違法はなく、論旨は理由がない。

同第二点について。

所論の約定遅延損害金債権に基づく相殺契約の主張は、上告人の被承継人である有限会社加藤与吉商店と米山商事との間に成立した旨主張されているのであることは本件記録上明らかであり、被上告人に対し右反対債権をもつて相殺の主張がされているものと解することはできない。所論引用の判例はいずれも本件に適切でなく、原判決には所論のごとき違法はない。それ故、論旨は理由がない。

同第三点について。

所論の点に関する上告人の抗弁の要旨は、米山商事との間の法律行為により請負代金債務が消滅したものであることを主張するものであることは本件記録に照らして明らかであり、所論のごとく真水建設との間の債務消滅の法律行為を主張するものではない。したがつて、この点につき判断を加えなかつた原判決に所論のごとき違法ありとはいえず、論旨は理由がない。

同四点について。

原審に所論のごとき釈明義務あるものとすることはできないから、所論の点について釈明権を行使しなかつた原審に釈明権不行使の違法ありとすることはできない。所論引用の判例は必ずしも本件に適切なものとはいえず、原判決には所論の違法はなく、論旨は理由がない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例